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遷音速流の微小擾乱理論の改良

大学院修士課程,博士課程を通じて遷音速流れに関する理論的研究を行った.当時数値シミュレーションの主流であった遷音速1次微小擾乱方程式に対して,2次の擾乱方程式を導き,その数値計算によって高次の項の果たす役割と効果を評価した(Transactions of the JSASS, 1978).また,境界層方程式との干渉計算法を開発し,粘性を考慮した翼型まわりの遷音速流れ数値解法を提案した(Proc. ICNMFD1981, Springer-Verlag) .

デルタ翼上の前縁剥離渦の数値解析

1981年から83年,また1986年から87年にかけてNASA Ames Research Centerにおいてデルタ翼に生ずる前縁剥離渦の数値解析を行った.ナヴィエ・ストークス方程式の数値計算によって得られる数値解は物体近くの境界層を含む流れだけでなくデルタ翼に生ずる前縁剥離渦などの流れでも物理的に正しい解を与えることを初めて示し,またその物理現象の解明を行った(AIAA Paper 83-1908, 84-1550, 85-1563等).1986年以降に行ったダブルデルタ翼に関するシミュレーションでは,数値計算によって2つのタイプの渦崩壊が捉えられることを示し,その違いが何に
起因しているのかのメカニズムを明らかにした(AIAA Paper 87-1229, International Journal of Numerical Methods in Fluids,1988, AIAA Journal,1989). 研究は他の研究者に引き継がれ現在でも多くの成果を生み出している(AIAA Paper 88-2558, AIAA Paper 89-0341など). NASA Ames研究所のPaul Kutler, Tery L. Holst, Lewis, Schiff氏らとの共同研究.

実用機体まわりの遷音速流の解析

1984年から1986年にかけて航空宇宙技術研究所在籍中に当時のYXXプロジェクトに関連して実用翼まわり,翼胴結合体まわり,全機まわりの遷音速流れの解析手法を開発し,その利用によって数値シミュレーションから信頼できる設計基礎データが得られることを示した(two AIAA Journal articles 1987).また,翼胴結合部分に生ずる干渉の流れパターンを明らかにした.これらの成果はAIAAよりその年次の空気力学分野のトピックスとして取り上げられている.現東北大学の大林教授との共同研究.

高速流体シミュレーションの数値計算法の開発

上記の研究に関連して,効率的な数値シミュレーションの手法の研究を行ってきた.実用遷音速翼流れ解析を行う際に大林氏(当時大学院学生,現在東北大学助教授)と開発したLU-ADI法(AIAA Paper 86-338, AIAA Paper 86-513)は亜音速から超音速にわたって広い速度域で最も効率的な陰解法の1つとして現在でも広く利用されている. さらに1996年には特に超音速流れに対して格段に効率的な数値解法を開発した(ICNMFD 1997 , AIAA Paper 97-2105).また複雑物理現象や複雑物体を簡単に扱う方法として解強制置換法を開発した(Journal of Computational Physics 1995 ).現在,多くの流れシミュレーションに利用している.さらに効率的な解法としてFF-SSGS法を提案している(AIAA J., 1999).

超音速空気取り入れ口の空気力学に関する実験的研究

スペースプレーンなどに関連して超音速空気取り入れ口に生ずる物理現象の解明に取り組んできた.現象が複雑なことから簡単化したインテーク風洞模型を作成し,そこに生ずる定常,非定常の物理現象を実験的に観測した.その結果から側壁の効果,アスペクト比の効果など将来の設計に
有効な知見が得られている.現在さらに衝撃波と境界層の干渉問題に関する実験を進めてきた (AIAA paper 95-2213, 機械学会論文集1996など).
石川島播磨重工(株)よりの受託研究員,黒田眞一,坂本一之らとの成果

爆風,衝撃波と物体の3次元干渉に関する数値解析

ロケット保安距離の算定に関連して爆風の伝播に関する研究を行った.地形が爆風の減衰に大きな影響を与えることを示した(Transaction of JSASS, 1993 ).また,数値的な誤差に関する詳細な検討を行って,実際の3次元地形に対しても信頼ある解を得ることができた(Proc. ISCFD1995など).並行して,山などを衝撃波が過ぎる際に生ずる3次元的な干渉を数値シミュレーションによって明らかにしている.さらに2つの衝撃波が干渉する際に生ずる強い圧力ピークや空力加熱のピークを捉えるための数値計算を行っている(AIAA Paper 96-2445, ICNMFD1996など).また,スペースプレーンにおいてエンジンナセルがどのように全機空力特性を変化させるかを数値シミュレーションによって評価している(International Journal of CFD19).
受託学生,学振奨励研究員の清水文雄氏(現九州工業大学助手),同じく宮路幸二氏(現横浜国立大学准教授)が中心になって行った研究.

超音速燃焼が引き起こす空力不安定に関する研究

鈍頭物体に特定のマッハ数で燃焼流れがあたると燃焼波面に2種類の不安定現象が観測される.これまではバリスティックレンジの実験によって限られたデータのみしか得られていなかった.限られた実験データを元に提案されていた不安定現象モデルが正しいことを数値シミュレーションによって示し,同時にその不足点を補って新たな流れモデルを提案した(AIAA Journal, 1995, 1996など).さらに数値シミュレーションに基づいて物体のサイズ,圧力などの情報が与えられればどのような現象が起こるのかを予測する一般的な予測方法を提案した(AIAA Paper 96-3137).
受託学生,学振奨励研究員の松尾亜紀子氏(現慶応大学教授)が中心となって行った研究.

飛翔体に関する高速空気力学的研究

飛翔体に取り付けられた小さな部品が全体空力特性にどのような影響を与えるのかを数値シミュレーションによって解析するための手法を開発し,それを利用して現象把握を行っている.1993年にはロケット頭部のスパイクの効果とその現象を実験,計算の両面から分析した(AIAA Paper 93-0887, Journal of Spacecraft and Rockets, 1994など).現在は数値シミュレーションを実用問題に利用できる技術に高めていくことを目的として研究を進めている.また,衝撃波を飛翔体が追い越す際に生ずる物体の不安定現象を解明するために数値シミュレーションを行っている.これまで2次元と3次元で現象が大きく異なることが示されている(AIAA Paper 95-1791, 97-1840).さらに,まだ未完成であるが固体ロケットノズル解析の目的で固気混層流の非定常/非定常流れ解析手法の開発(AIAA Paper 83-0041,96年流体力学講演会),ロケットノズルと地面の干渉などの現象理解のためのシミュレーションを行ってた(96年計算工学講演会).その後,M-Vロケットにおけるフランジなどの小部品の影響,全体抵抗のCFDの予測精度などを検討してきた.

超音速飛行体による先行衝撃波追い越しに関する研究

先行する衝撃波を後方から物体が追い越す際には衝撃波によって誘起される流れのせいで物体上の超音速,亜音速の流れが同時に現れるというおもしろい現象が見える.工学的にもこれによって物体の軌道が影響を受けるといわれており,この実験の難しい現象の解明には数値シミュレーションが有効なことが研究動機となっている.
受託学生(現武蔵工業大学助手)渡辺力夫氏が中心となって行った研究.

数値シミュレーションデータの可視化処理に関する研究

数値シミュレーションにおいては結果を分析するために可視化を利用した後処理が重要である.そのため可視化処理を利用した数値シミュレーション後処理システムを開発した(International Journal of CFD, 1993など).平成4年からは科学技術庁航空宇宙技術研究所より5年間に渡って受託研究を受け,更に先進的な解析システムを開発した(Proc. ISCFD95 ).現在システムは工学のみならず所内外の理学研究者を含め国内,国外で30以上の方々に利用されている(各学会誌などの解説記事).
当時研究室助手(現東洋大学教授)田村善昭氏が実際のプログラム開発を担当.
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